「とつきとおか」で迎える器 森と人のめぐる時間
森と人のめぐる時間
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『還(めぐ)りの森』 2021年 浅野友理子
(木製パネルに油彩、水干絵具、岩絵の具)
より善く食べることは、より善く生きること。
そう考えた時、器は
“人が人らしく生きていくための道具”
なのかもしれません。
―もしも器がなかったら、と想像してみると、
人間らしさの大きな部分がなくなってしまう
ことに気づくことでしょう。
縄文の頃から続いてきた、漆の器。
私たちは、数千年間の長きに渡り、
樹木の恵みから食べるための器を作り、
穏やかな祈りとともにいのちをいただき、
日々の暮らしを続けてきました。
そして、いつもその背景にあったのは、
山々の豊かな恩恵とそれを活かす人の営みです。
会津もまた、そのような土地のひとつでした。
職人たちの住む盆地を取り囲む山々の土と水が
漆器のもとになる樹木を育み、
四季のはっきりした気候がものづくりを後押しします。
本来、そんな季節の循環の中に、漆器づくりはあります。
「一年に一回」の循環が、何千回と繰り返されて「今」があります。
「めぐる」の“とつきとおか”も、その循環をつなぐ“ひとしずく”です。
変わらない悠久の時を感じながら、森と人の時間をめぐる旅に出ましょう。
季節をめぐる漆の旅
スケッチ:画家・浅野友理子さん
春
山も里も一斉に目覚める季節。
ウルシやトチの花が咲く頃、漆器づくりも動き始めていきます。
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春の乾いた爽やかな風の中。
トチの木を材料に、木地挽きが進んでいき、器の素地が作られていきます。
梅雨〜夏
陽と水を浴びて、植物もぐんぐん成長する季節。
ウルシの木から漆を採取する作業も本格的に。
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いのちの輝きがピークを迎える夏は、漆塗りもはかどる季節。
湿度と温度で、漆の中の酵素が活性化され、どんどん固まりながら、しっかりした下地が作られていきます。
漆を塗るための刷毛(はけ)もまた、専門の職人が作る道具。
それもそのはず。人の髪の毛で作られる特殊な刷毛なんです。
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秋
次の世代へ種が受け継がれる実りの秋。
ウルシやトチの実が実る頃、漆塗りの仕上げが終わります。
漆塗りが終わると、漆器も最後のお化粧。
蒔絵が描かれていきます。
そうして、器は皆さまのお手元へ。
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冬
冬のはじめ、植物の生長が止まるシーズンに、トチノキの伐採を行います。
やがて雪によって土壌が醸される静かな時間に。
雪国の長い冬が終わると、また季節はめぐり、春の芽吹きがやってきます。
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絵本動画「おわんくん物語 〜きみといっしょに」
子どもたちに漆の器のことを伝えたいと思い制作した動画絵本です。自然の中から生まれ、たくさんの人の手を渡りながら、長い時間をかけて旅をするおわんくんの物語。是非お子さんと一緒にご覧いただけましたら嬉しいです。