めぐるのある暮らし 暮らしのシーンから

「束の間の静寂の合間に椀からジイという音が聞こえる…めぐると娘の10年の物語」

この「暮らしのシーンから」のコーナーでは、「めぐる」を日々の暮らしに迎え入れていただいた皆さまから、めぐるの器を通じて生まれた日々の変化や、人生の節目の嬉しい出来事をお寄せいただいています。
今回は東京都在住のご愛用者、野津結希さんから、お子様も交えてのとっても素敵なストーリーを教えていただきました。是非ご覧いただけたら幸いです。


高校生の時、何気なく読んだ文豪・谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」。日本の美を深く探求し、今も読みつがれている名著です。
その中にあった一節が読んだ後、私の心に深く残りました。
「私は、吸い物椀を前にして、椀が微かに耳の奥へ沁むようにジイとなっている、あの遠い虫の音のような音を聴きつゝこれから食べるものの味わいに思いを潜める時。いつも自分が三昧境に引き入れられるのを覚える。」

三昧境とは仏教用語で心を一事に集中して、雑念を忘れた忘我の境地をいうのだそうです。谷崎はろうそくの光の中の漆の椀とそこに盛られた味噌汁の中に日本の美を見出しました。
乾燥した椀に熱い汁を注ぐと、木が水分を吸って音をたてる。あたりまえのことのように思えますが、試しに手近なお椀で試してみても、なぜか音は聞こえません。

小さな疑問を抱えていた私に、幸運にもたまたま「めぐる」を立ち上げるタイミングの貝沼さんとお話しする機会が訪れました。貝沼さんからは現代のデパートなどで売られている漆器の多くは木地がプラスチックで作られていることもあり、椀が汁を吸い込まず、谷崎のいう音はしないと教えていただきました。
子育てで何かと出費が重なる時期でしたが、不思議な音への好奇心と、当時まだ幼かった娘にメラミンの食器を使っていて味気なさを感じていたことから、「めぐる」の器を我が家に迎えることにしました。

初めて「めぐる」に注いだのは陰翳礼讃に書かれた味噌汁。
出来立ての熱い味噌汁を椀に注ぐと、ちゃんと「ジイ」と音がして感激しました。非常に小さな音で、エアコンも換気扇もすべて切って、それでやっとかすかに聞こえるような小さな音です。こんな小さな音に美を見出した文豪の日常への眼差しに感動し、また、それを体験させてくれた「めぐる」にもあらためて感動しました。

その後、都合10年にわたって、お世話になっています。しじみに小松菜、豚汁、味噌汁をめぐるに入れて毎日のようにいただいています。
うっかり手を滑らせて落してしまって3つともヒビが入ってしまいました。その度にお直しをして使い続けています。

修理の度に半年ほど使えなくなるため、新しいものに変えることも考えましたが、娘が断固として「あのお椀じゃないと嫌だ」と言います。 むしろ修理のたびに前よりもかっこよくなったと大喜び。 この原稿のご依頼をいただいて思い出したのですが、5歳のとき野菜嫌いがすすんでいたのですが、修理からかえってきたタイミングで「美味しく感じる!」と言い出し、味噌汁に入っていればだいたいのものは食べてくれるようになりました。

枯らしの工程や金継ぎのことなどを娘に伝え、日本人らしい、ものとの向き合い方を「めぐる」から教えていただきました。きっとものを大切に育てる子に育っていると思います。
私は慌ただしい毎日を送っていますが、娘を学校に送り出して一息ついたとき。味噌汁をお椀に注ぐと、束の間の静寂の合間に椀からジイという音が聞こえます。ああ、今日も無事に1日が始まるなあ、と感じます。 他の方はどんなタイミングでこの音を聞くのでしょうか。

我が家の一番の愛用者である娘も、少しですが「めぐる」のことを書きました。私たちがどのようにめぐると付き合っているかは、娘の言葉で聞いていただけたらと思います。

以下、娘・芽以からの文章です。

私は東京都に住んでいて、0歳〜1歳の時からこのお茶碗を使っていて、今は10歳です。(※執筆当時)
このお椀に青菜と豆腐のお味噌汁を入れて飲むのが美味しくて好きです。(このお椀に入れるとなんでも美味しいのですが)それにこのお椀は見た目よりもたくさん入るので私は嫌いなものが多かったのでこれぐらいならと思って飲んでみたらたくさん入るので嫌いで食べれなかったものもいつのまにか我慢したら飲めるようになっていました!
このお椀の他のお茶碗に無い良い所は多少値段が高いのですがそれ以上に長持ちする所です。私は今までずっとこのお椀を使い続けていますが昔とちっとも見た目が変わっていません。それに落とさない限り傷もつかないからです、しかも傷がついてしまっても修理してもらえるし修理するとそれまで以上にかっこよくなってついまた落としてしまってもいいかもしれないと私は密かに思ってしまいました。それに修理してまた使いたいぐらいこのお椀が魅力的で小さい頃の自分にとっては特別なお椀という感じがして宝物でした。
それに最近産まれたばかりの私の妹も「ご飯が食べられるようになったらこのお椀を使おうね。」とわたしが自分のお椀を見せながら言ったら心なしかニコニコして喜んでいました。
まだまだこのお椀の良さは書ききれないほどあります。ぜひぜひここには書いていないような自分なりの良さを見つけてみて欲しいです。

東京都在住 野津結希・芽以


野津さん、本当に素敵なお話ありがとうございます!「陰翳礼讃」を糸口に、「ジイ」と音が鳴るところに着目していただいたのには感動いたしました。この本は、私自身、漆器の道に入ってから、ずっと何度も読み返しているのですが、まさか「ジイ」と音が鳴ることを実際に確認される方がいらっしゃるとは、、、嬉しい驚きでした。お迎えいただいたのは、めぐるの初期に生産していた「拭き漆」の器だったので、余計にその音がはっきりと聞こえたのかなと思います。これからもいつでもお直しを承りますので、ご家族の成長と共に、長くお使いいただけたら嬉しく思います。(めぐる・貝沼)

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