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めぐるの木地材料 栃の木に託す夢 | 第6期とつきとおか日記①

2020年4月16日とつきとおか日記 

漆器「めぐる」は、今年・第6期より十月十日(とつきとおか)をかけて製作工程をお伝えしながらお届けするという仕組みになりましたが、もう一つ、ある理想の実現に向けて、小さくも大切な一歩を踏み出しました。

それは、会津の漆器である「めぐる」を地元会津の木で作る、ということです。
そう言うと「なにをそんな当たり前のことを?」と思われるかもしれません。でも、今は当たり前のことを当たり前にすることが少し難しくなっている世の中かもしれません。

「とつきとおか日記」のスタートは、そんな話から始めたいと思います。

「めぐる」には国産のトチノキ(栃の木)を使っています。これは当初より一貫してこだわっている点です。栃は、漆器界で伝説的名著として知られる『日本漆工の研究』でも挽物用樹種として最高評価の「優良」とされ、軽くて割れにくい、お椀にするには最高の樹木の一つです。

『日本漆工の研究』より

昔は、栃の実が食用であったこともあり、日本では縄文時代から里山に多く植え育てられてきた木です。

それが、戦後日本の山が拡大造林により針葉樹主体の人工林になったことで、トチノキ自体が少なくなり、しかも近年ではテーブルや家具としての栃の需要が増えたことなど様々な要因が重なっているそうで、漆器の木地材としての栃が全国的に手に入りにくくなっています。

実は「めぐる」の生産も木地の段階で時間がかかったり調達がうまくいかなかったりすることが多く、何度も他の材に変えようかどうしようかと悩んだことがありました。

しかし、やっぱり「めぐる」としては、栃に勝るものはなく、なんとかいい方法がないかと模索してきました。
それぞれの木にそれぞれの特徴があるので他の材ももちろん良さがあります。しかし、応量器の精神を引き継ぎ、命の重さを感じながら食事をいただく優しさ、歳を重ねても持つのに苦労しない軽さ、長く使っても割れや痩せの少ない丈夫さ、そしてなにより、栃の持つ独特のあたたかみは、ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドの皆さんが、これがいい!と見事に言い当てた木です。

これまでは、木地師さんにより、岩手や石川のルートから栃の木材や荒型を仕入れていただいていました。
しかし今後、この原材料の問題をどう捉えて、どうお客さんとも共有しながら進めていけばいいか、流通負荷も考えると、一番いいのはやはり地元のものと思いながらも逡巡していました。

そのような中、奥会津・三島町の林業会社「森のしごと舎(佐久間建設工業)」の岩渕良太さんからご連絡をいただき、ちょうど一年前の2019年4月14日、木地師さんたちと一緒に木材を見に行きました。

樹齢100年以上の立派なトチノキです

仕入れに関するビジネス的な話以上に、私たちと岩渕さんたちが通じ合ったのは、山のことを一般の方たちに伝えていこう、森から器になってお客さんに届くまでを繋いでいこう、そのための取り組みをご一緒しよう、というものでした。
そこで今回、まずは1立米(めぐる約100-150組分)の会津三島町産のトチノキを購入させていただきました。

買い付けた原木は製材され、2019年5月24日に日月の器を挽いていただいている木地師・石原晋さんの工房へと運ばれました。

それから約1年。
天然乾燥によりゆっくり水分を抜かれて、じっくり寝かされて狂いの少ない材料へと成長してきました。

めぐる・第6期の日月の器は、このトチノキを使って作られていきます。

これは本当に小さな一歩です。
木と漆で出来ている器、漆器。漆のことは最近注目を集めていますが、もう一つの材料、木地のことは見逃されがちかもしれません。でもこれは日本の森林の問題とも繋がっています。

「めぐる」は、日本の山と食卓をより繋ぎながら、その裏側にあるものをお伝えし、使い手である皆さんにも未来を作る仲間としてご一緒していただければと思っています。

一つの器を通じて、人と自然のめぐりゆく物語を繋ぎ直していく。
当たり前が難しい世の中で、この当たり前のことを小さくとも一つ一つ実現していきます。



最後に、、森の中で撮影した岩渕さん。
山の男は、やっぱりカッコイイですね!
岩渕さんの普段の活動やお仕事については、こちらのインタビュー記事もお勧めです。

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