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漆の精製(天日クロメ) | 第6期とつきとおか日記⑤

2020年7月23日とつきとおか日記 

さて、7月も中旬に入り、漆器「めぐる」第6期の製作も木地から漆塗りに移っています。

今日は、その原料となる「漆」のお話をお伝えしたいと思います。
これまた、数年がかりの準備なんです。

「めぐる」の漆は、岩手県・浄法寺地域で活躍する会津出身の漆掻き職人、鈴木健司さんから直接いただいています。

漆をどのようにしてウルシの木から採取するか、見たことがある方も少ないと思いますが、鈴木さんが漆掻きをされている様子が収められた映像がありますので、是非一度ご覧になってみてください。写真家の奥山淳志さんが製作された、とっても迫力があって引き込まれる映像です。


このようなお仕事を経て、鈴木健司さんから一昨年(2018年)の冬に届いたのが、こちらの漆です。盛漆(さかりうるし)という、盛夏の時期に採れた漆です。(漆も採取する時期によってその性質が変わります。)

漆専用の木樽と独特の紐の結び方

そして、漆が届いてから半年後、今からちょうど一年前となる昨年(2019年)の初夏、この漆の「精製作業」が行われました。

精製って何?と思われた方も多いと思いますが、漆器づくりでは、漆塗りの工程前半の「木固め」や「下地」の作業では木から採ったそのままの漆を使いますが、工程も後半になり漆だけで塗り重ねていく段階になると、精製させてより純度と透明度を高めた漆を使っていきます。(漆は精製することでより美しく丈夫な塗膜を形成してくれるようになります。)

漆の精製作業は、「クロメ」と「ナヤシ」と呼ばれます。
クロメとは「黒める」こと。脱水作業のことです。漆の中に20-30%程含まれている水分を飛ばして3-5%程度にしていきます。
ナヤシとは「なやす」こと。撹拌作業のことです。漆をかき混ぜながら、分離している成分や粒子を細かく均一にしていきます。

めぐるの漆の精製は、水平の塗師・吉田徹さん、日月の塗師・冨樫孝男さん立ち会いのもと、お弟子さんたちが行いました。

まずは、漆を「クロメ鉢」と呼ばれる専用の鉢に全て移していきます。

これが漆樽の中身です

この精製前の漆を、「生漆(きうるし)」と呼びます。
生漆の中には様々な成分が含まれていて、樽の中では比重によっていくつかの層に分かれています。(完全に分離している訳ではなくゆるやかなグラデーションで分かれています。)

一番上澄みの部分
中間部分
下の部分
一番底の部分


漆の液の中には、主成分であるウルシオールという油の他、水分やゴム質、糖タンパクなどが含まれています。

漆の精製は、熱を加えながらこれらの成分を撹拌することで、漆の中の水分を飛ばし、同時に粒子を細かくしていく作業になります。

めぐるの漆は、おひさまの力を借りて行う「天日(てんぴ)クロメ」という方法で行いました。

櫂(カイ)と呼ばれる棒でかき混ぜていきます


では、何故このような作業が必要なのでしょうか?

その理由を説明するために、少しマニアックな話にはなりますが、漆液の中の構造から解説していきますね。

ある程度かき混ぜた漆液を顕微鏡で見てみると、油分であるウルシオールの海の中に小さな「水球」が沢山散らばっている状態になっています。

でも、最初の状態(精製しない生漆の状態)だと、漆の中の水分が多く、水球一つ一つも大きく不均一です。

その状態の漆を「塗料」として使うと、水分が多すぎてサラサラしていて塗膜に厚みが出ず、また水球の粒子が大きいので、塗膜に光沢が出ずに美しく仕上がりません。

ですので、このクロメ(脱水)とナヤシ(撹拌)という作業を行うことで、漆から余計な水分が取り除かれるのと同時に全体の成分が細かく均一に混ざり合うことで、塗った時に粒子が綺麗に揃い、漆独特のなんとも言えない美しい艶が出るだけでなく、塗膜硬度も上がり丈夫な漆器となります。

ちなみに、漆液の中の水球の中には「ラッカーゼ」という酵素が生きています。この酵素の働きにより、水分から酸素を取り込むことで漆は固まることが出来ます。

このなんとも不思議な力が、植物からもたらされている漆という素材を見ていると、本当に自然は偉大で神秘的だなと思います。

さて、数時間かけてクロメとナヤシをしていくと段々色が深くなっていきます。黒くなってくるのは、精製作業によってある程度酸化が進むためです。(なんだか美味しそうなチョコレート色ですね。^^)

でも、ただ漫然と混ぜているだけでは失敗してしまいます。漆の中の水分が全てなくなってしまったり、漆の温度が50℃を超えるとラッカーゼ酵素の活性が失われて使えない漆になってしまうため、常に40℃くらいをキープし、終わりを見極めながら作業します。

そうして出来上がったのが、こちらです。黒く見えますが、実はガラス板に付けると半透明に透き通っています。

精製後の漆のことを「透き漆」と呼びますが、まさにその名前の意味が分かると思います。

この漆に顔料や鉄粉などを混ぜて赤や黒の漆を作り、水平や日月の「花塗り」の漆となっていきます。顔料も何も混ぜずにこの茶褐色の半透明な漆だけで塗ったものが、水平の「木地溜」の器になります。

仕上がった漆は粘度が増して、ヘラで掬うとこのように「漆の道」が見えるようになるそうです。

精製後の漆はまた桶に戻されて、少し寝かされます。(寝かさずに使う場合のありますし、数年寝かしてから使う職人さんもいらっしゃいますが、それは作り手さんによって様々な考え方があるそうです。)


そして今年、2020年夏。これからついにめぐるの漆塗りへと使われていきます。(花塗りの器では木固めや下地などの最初の方の作業には生漆を使い、後半の塗りからこの精製漆を使っていきます。拭き漆や木地溜めの器は、全てこの精製漆で塗っていきます。)

それでは、これからの漆塗りのレポートもどうぞお楽しみに!



ということで、なかなか普段は表に出ない「漆の精製(天日クロメ)」の話、いかがでしたでしょうか?

天日クロメの一連の作業を映像にもしましたので、最後に是非ご覧いただければ幸いです。

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