今年、2025年は「めぐる」が誕生して10周年となります。
それを記念して、久しぶりに「めぐる」に関わる会津の職人たちやダイアログ・イン・ザ・ダークのメンバーが一同に集い、対話する機会を設けました。十数年前の開発期間のことから器の誕生、そして皆様の手で育てられるようになるまでの物語を振り返りながら、これからの「めぐる」の未来について語り合いました。
今回は、その前段として、「めぐる」のメインプロデューサーの二人による「はじまりのはじまり編」をお送りします。
文章はライターの関川香織さんです。

漆器「めぐる」は、2015年に誕生しました。会津の漆職人と、ダイアログ・イン・ザ・ダークの暗闇の案内人である視覚障害者たちが出会ったからこそ実現したプロダクトでした。
暮らす場所も異なり、通常であればお互いに接する機会のない、それぞれのプロフェッショナルは、どうやって出会ったのでしょうか。

漆とロック代表の貝沼航さんは振り返ります。

「今から15年ほど前、私は会津の中で漆の木を育てる活動に本格的に参加し始めていました。そして、樹木の命の雫である漆という素材に魅せられ、そこから生まれる温もりのある器、漆器のとりこになっていました。しかし“優しい器”としての漆器は、世間の中にある漆器のイメージと大きなギャップがありました。

つまり漆器は高価で手が出しづらく、日々の暮らしで日常使いするものではないという固定観念とのギャップです。どうしたら、このギャップを乗り越えて漆器本来の姿を伝えられるのだろうかと苦悩し、暗中模索の日々でした。

そんな時、『社会イノベーター公志園』※で、ダイアログ・イン・ザ・ダークの志村季世恵さん・真介さんと出会いました。
お互いのプレゼンテーションを聞き、自然と言葉を交わすようになった時、志村季世恵さんが『私は漆器が大好きなの！いつか会津に行きたいな』と話してくださったのをよく覚えています。

はじめは社交辞令かと思っていましたが、案外と早く実現することになります。その数カ月後に、東日本大震災があったからです。 季世恵さんたちは真っ先に、『私たちにできることはありませんか？』と連絡をくださいました。

同じ福島でも会津は線量の低い地域だったので会津に避難してしてきた方々が多くいたのです。けれど同じ福島県民でも文化が異なることもありました。そこで会津の文化を知っていただくために、2011年の暮れに、会津でのダイアログの出張開催が実現しました。その時のテーマは「漆器・イン・ザ・ダーク」。暗闇の中で漆器を愛でてみようという画期的なイベントでした。

職人さんたちと一般の方とが一緒に、真っ暗闇の中で漆器を使うプログラムによって、触覚で感じるからこそ観えてくる漆器の本来的な魅力の可能性を感じました。

その暗闇の中で、季世恵さんが発した「まるで器にkissをしているようね」という一言で、すべての方向性が決まりました。

まさに、僕が数年藻掻いていた暗闇に、ひと筋の光が差した瞬間でした。視覚以外の感覚を、研ぎ澄ますからこそわかる、漆器本来の魅力を表す言葉。そこから、「kissする漆器プロジェクト」がスタートし、後の「めぐる」に繋がったのです。」

一方、ダイアログ・イン・ザ・ダーク代表の志村季世恵さんは、こう語ります。

「漆とロックの貝沼さんと出会うことにより、会津に導かれ、いのちが巡っていく漆の世界に魅了されました。

職人さんとの出会いは、私が知っていた、生き物のいのちの『めぐる』から、もう一つの『めぐる』を見せてくれました。『モノ』を作る中にある、いのち。

1人で完結しないその作り方。そもそもの木を育て、漆を採取し、木地師（きじし）さんが器を形づくり、塗師（ぬりし）さんが漆を塗り重ねるという分業から漆器は生み出されます。人から人へと渡る過程で漆器が育ち、やがてそれは使う人の手に渡り、その暮らしの場で新しい『物語り』がめぐり始める。

ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドとの出会いで『めぐる』が誕生して10年が経ち、そんな『めぐる』が織りなす旅を、これからも見守っていきたいです。」

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座談会「めぐる誕生10周年記念座談会 人も、器も、育っていく…10年後の現在地とこれから」の本編は、下のリンクよりお読みください。

前編：会津の漆器職人とアテンドとの出会い、漆の器にこめた想い

後編：「めぐる」を100年先まで届けるために、できること