めぐるの最新情報(ニュース)
「めぐる」を100年先まで届けるために、できること

2015年に誕生した漆器「めぐる」は、今年(2025年)で10周年を迎えました。
これまで私たちの活動をお支えいただき、めぐるの漆器をご愛用いただいている多くの皆さまのおかげで10年間続けてくることができました。心より御礼申し上げます。
この度、10周年を記念して、「めぐる」の製作・運営チームが集まり、開発期間も含めると10数年間におよぶ時間を振り返る座談会「人も、器も、育っていく…10年後の現在地とこれから」を開催しました。
前編では、会津漆器の職人とダイアログのアテンドたちとの出会いから「めぐる」が生まれるまでについて対話しました。後編では、「めぐる」が見せてくれる今とこれからについて対話します。文章は、編集者/ライターの関川香織さんです。
次へ、渡していくこと
(ダイアログ・イン・ザ・ダーク ※以下DID 志村季世恵)
「めぐる」の作り手として、この10年でなにか変わってきていることはありますか?
(塗師・吉田徹)
実際にはこの10年で、自分自身は手を動かしていない部分が増えました。次の世代が育ってきて、若い人が手を出すということにつなげてきたと思います。
次の世代に引き継いで、流れをつかんでもらい、自分は歳をとっていく、というのがいい形なので、その流れにのっとっているという実感は、あります。

塗師・吉田徹さん
(DID・志村)
無理があるような作り方をしていたら、うまく引き継がれないような気がしますね。
(塗師・冨樫孝男)
そうですね。自分じゃなきゃできないといったことがないようにね。
(漆とロック・貝沼航)
運営側としても、紆余曲折がありながらも、うまく引き継がれていくかたちを探ってきた10年でした。
(DID・志村)
どういうところに紆余曲折を感じるんですか?
(漆とロック・貝沼)
やはり日本の工芸を取り巻く現状は年々厳しさを増しています。「めぐる」の場合、最初は材料の問題でした。トチの木のいい材が入らないのであれば、いい木材を市場で競り落としたり、木こりさんに切ってもらって直接仕入れしたりするところからやるしかない。そうして材料も確保した上で、年1回の生産スケジュールを決めるという方式で「めぐる」ならではの“とつきとおか(十月十日)”のスタイルが始まりました。
今はアイテムも増えましたし、材料費の値上がりも毎年のようにあります。バランスを含めてどういう形がいいのか、広げては整え、また次へ進んで行く、表には出ない部分ですが、一番いい形に微調整することの連続ですね。

漆とロック・貝沼
(木地師・荒井勝祐)
私たち木地師の仕事は、会津で一・二を争う塗り師さんに渡すのですから、次の工程がやりやすいようにしたいという気持ちがあるんです。毎回、どうしたら塗りやすくできるかなと聞いたりしています。
(塗師・冨樫)
必ず聞かれますね。
(木地師・荒井)
もちろん何も言われないようにやろうとしてるんですけど、気になる事はできるだけ言ってほしいと思っているんです。
前の年よりもさらに良いものを、と言う気持ちで毎回作っています。木地が仕上がったときに手で触って、あれ?という違和感があれば修正しながらね。今はそうした修正をしなくても、できるようになりましたが、今年還暦を迎えて、年齢とともにこれをどこまで続けていけるか、という心配はあります。
今、会津には、木地師のお弟子さんになりたい人が少なくて、木地師の数も減っています。これで伝統がなくなってしまうのは困ります。
石原さんの摺り型ロクロの方法も本当に会津を代表する木地です。うちの手挽きロクロも、源流は石川県の山中のやり方だけど、うちの親父が会津に持ってきて会津でやっている。こうしたものをどう残したらいいのか。やる人がいないと難しいので、その辺は一番悩んでいますね。

木地師・荒井勝祐さん
(DID・志村)
めぐるにつながる話ですよね。
めぐるを使っている方の中から、お弟子になりたいという方が出てくるといいですよね。興味がある人は、絶対いるはずなんです、ただ知らないだけで。
(木地師・荒井)
やりたいという人はいますが、そのまま続けてお弟子さんになり、さらに独立してやるという人は、なかなか少ないですよ。
(塗師・冨樫)
学校で教えたりもしているんですが、続ける人とやめてしまう人の決定的な違いは、強い想いがあるかどうか、だと思います。
テクニック的なものじゃなくて、内面的・精神的なものだと思いますね。
信念のような、絶対にやる!というすごく強い想いであり、それは決して揺るがない。そういう人は続きます。

塗師・冨樫孝男さん
(DID・志村)
想いがあるかどうかという部分、分かる気がします。アテンドたちも職人なんですよね。
(DIDアテンド・みきティ)
常に発見があって、「これでいい」ということがなくて。やればやるほど新しい発見があるというか。もっとこうしたいなと思うことがあります。歌も、アテンドも。
自分の中で、漆器をつくることと、音楽やアテンドとが一致する部分があると感覚的にわかります。
職人さんの技は、お弟子さんに受け継がれて、使う人にとって安らぎを感じられる漆器となっていく。
アテンドも、人と共有できるような感覚や対話が、常に毎日変化します。歌も、作曲家が作ったものを伝え、自分が生み出したものを伝えるのです。
大切に人に受け継がれたり、誰かがそれを味わって感動したり、幸せになったりできるものというところに共通している部分を感じます。

DID アテンド 川端美樹(みきティ)さん
この10年を振り返って思うこと
(漆とロック・貝沼)
石原さんは、これまでの10年を振り返ってみて、いかがですか?
(木地師・石原晋)
木地をつくる心根は変わらずですが、この10年の間に私は病気をしたんです。3カ月ほど入院していたときに思ったのは、「早く元気になって、めぐるを挽かなくちゃ」ということでしたね。リハビリの励みになりました。
今、元気でこうして続けられるのは幸せです。
(漆とロック・貝沼)
そうでしたね、元気になられてよかったです。めぐるのお仕事での10年間の変化や他のお仕事との違いのようなものはありますか?
(木地師・石原)
私の場合はそんなに大きな違いはないんですけど、最初の、まだ形がまったくないところから携わっているので、ほかの仕事よりも思い入れはありますね。

木地師・石原晋さん(この日は会津の工房からオンラインで参加)
(塗師・冨樫)
私も石原さんと同じで、変わりなくいつもどおりに向き合っています。ただ、吉田さんと同じように、うちも弟子に少しずつ担当させながらつくっています。
…今、持っているこの器、これは去年、弟子に下地をやらせたものなので、出来上がり具合をチェックしてました(笑)
(木地師・荒井)
どの製品も、細心の注意を払いながらつくっていますが、吉田くん、冨樫くんに文句をいわれないようなものを作っておけば、最後にお客さんの手にわたったときに、アテンドの皆さんみたいな感覚の人が増えていくんじゃないかと思っています。
次のために今の仕事をしっかりやる。最後は塗師さんなので、木地師なりに塗師さんが塗りやすいように、と思っています。今の自分の工程をしっかりやれば、次の工程が楽になるので、それがいいものにつながる。それが、冨樫さんが言った「理にかなっている」ものだと思うんです。

各工程の職人さんたちのプロの技と心が重なって完成する「めぐる」の器
(DID・志村)
貝沼さんは、この10年での変化として感じることはありますか?
(漆とロック・貝沼)
そうですね。この10年の間で、実際に全国の食卓でこの器をご愛用いただいているたくさんの皆さま、お仲間が増えたので、それがとっても嬉しいです。それを実感するのが「お直し」の器が戻ってきた時なんです。お直しで帰ってきた器の表情を見ると、どの器も本当にピカピカに「使い艶」が上がっていて嬉しくなります。
(DID・志村)
それは嬉しいですね。そういえば昨年(2024年)、「めぐる」に続くブランドとして「めぶく」も誕生しましたね。
(漆とロック・貝沼)
そうなんです。実は数年前から「めぐる」も含めて、より器の循環と植林活動がダイレクトに繋がる漆林づくりを進めていて(猪苗代漆林計画)、その活動の象徴として、より若い世代の作り手が製作するお弁当箱を発表しました。
(DID・志村)
私も早速予約しました。なんだか、めぐるはお家の中で「食べる=いただく」守ってくれる、しっかり役の兄や姉の存在、めぶくは家から外に出た私たちの「食べる=いただく」を応援してくれるようなアクティブな妹や弟のような存在、なのかななんて想像していました。
(漆とロック・貝沼)
ありがとうございます!そのように受け止めていただいて、とっても嬉しいです。実は「めぶく」という命名も、「めぐる」同様に、季世恵さんや真介さんとの晩秋の漆林での対話の中から生まれてきたものでした。そういった意味でも、めぐるとめぶくはきょうだいのような関係ですね。

2024年に誕生した「めぶく」のお弁当箱。蓋にウルシの種が仕込まれている。
「人も、器も、育っていく」、めぐるのこれから
(DID・志村)
これから「めぐる」をどういう風に育てていきたいですか?
(漆とロック・貝沼)
これまでもそうでしたが、作る・使う・直す・育てる、という循環が続いていくことが大切だと思うので、やはりその名前の通り「できるだけ長くめぐっていけますように」と願っています。
何度も乗り越えなくてはならない山はありましたが、続けていく大きな意味も見えてきています。
これからも続いていくためによりよい形にしていくには、どうしたらいいか。皆さんからもお聞きしたいです。
(DID・志村)
「めぐる」の名前を命名したことも、三つ組の椀をつくったことにしても、会津に行って職人さんにたくさん教わったことを形にした、というところが大きいんですね。“とつきとおか”も、職人さんたちのものづくりのストーリーがこの器を通して会津の漆器を知らない人たちに知ってもらえるようなツールになったらいいな、と。
丁寧に使ったら百年近く使えること、塗り直しができること。使い続けながら、次の世代へ、器とともに、作り手さんも同じように続けていけるんだ、ということが“三方良し”のような物語があったらいいなと思ったんです。

(DID・志村)
初めて「めぐる」に触った時に、ああ人の肌と似ているなと思ったんです。器に、唇が触れた時に、子育ての中で子どものほっぺにチュッてするキスに近いと感じたんですね。それを言ったときに、アテンドたちが「ほんとだ」と言ってくれた。
感性と技術と、作っていくプロセス、ぜんぶ合わせたものが「めぐる」だと思っています。
貝沼さんが今後、これを伝え続けていくことが使命でしょう。これを持ってもらうことがいちばんの宣伝になると思ったんですよね。
受注してからお客さんの手に渡るまで、十月十日かかる。手間がかかることを知ってもらうことがいい。
私はこうして、皆さんから受け取ったもので「めぐる」と名付けただけなんです。それをこれからも続けて、会津を思い出してもらいたいのです。
工房にお邪魔した時、あたりまえに粛々と作業されている様子が、とても美しかったのです。
ふだんルーティンでやっていることに、人はその美しさには麻痺します。でも、違った職業の人から見ると、それがどれだけすごいことかとわかる、それを知ってほしいです。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク 代表 志村季世恵さん
(DIDアテンド・みきティ)
漆器が、こんなにも日常生活の中で、食事と自分をつないで豊かにしてくれる器だと伝えると、めぐるの、漆器のファンになってくれる人が周りにいます。それは、配信したら一気に何万人が見ました!という伝わり方ではなくて、実際に使いこんで感じることとか、それを知って感じることで伝わっていく。
私のように最初の出会いが衝撃的で感動して、実際に使っていくごとに実感することが、誰かに伝わっていくのかな、と思います。
漆は、木を育てるのも繊細で、十数年かけて育ててようやく1本あたり180mlほどが採れるというくらい貴重なもの。だからこそ、大切に使いたいです。会津で育ってきた木を挽いて、漆を塗って、たくさんの職人さんの手と声を感じる芸術です。
だから、漆器を使うと、丁寧に食事を味わう大切さを感じられるのかなと思います。

(DIDアテンド・みきティ)
漆器を作ることと同時に、漆器を実際に使って食事をすることが、日本の伝統として素敵だと思います。手を伸ばせばなんでも手が届いてしまう今の世の中で、「これほんとに100円で作れるの?」と思うようなお茶碗が、実用的な場合もあります。でも、器に口をつけてお汁をいただく、お茶をいただく、匙を口に触れる感覚は、日本の素敵な食べ方だなと思うので、もっとファンを増やして、漆器のことをたくさん、私の感覚で伝えていきたいと思います。
(木地師・石原)
みきティの言うことに深く同意します。
理想は、我々がこの地球にいなくなって百年たっても、「これはうちの先祖が、おじいちゃん・おばあちゃんが使っていためぐるだよ」と使ってもらうことです。そして百年後にまた新しいものを買える状態をどう作っていくか、ですよね。実際に我々が技術を継承していくための諸問題については、話し始めたら明日の朝になってしまうのですが、これはみんなで知恵を絞って考えていかないと。そういう意気込みをもって、頑張っていきたいと思います。これからも。
(DID・志村)
それは今使っている人がいるからこそ、ですよね。
(木地師・荒井)
みきティみたいな使う人としての後継者を育てていくのも大切だなと思います。
(DID・志村)
めぐるをつくる後継者の方と、次世代の使い手と、話ができたら素敵ですよね。また違ったことが起こりそう。
めぐるを続けていくために、使う私たちが、丁寧に使っていく人を育てていかなくちゃいけないですね。
(DIDアテンド・みきティ)
そういう気持ちは、漆器に育ててもらえるものだと、いつも感じています。
私は普段の行動ががさつな分、漆器を、全神経を使って、丁寧に音を立てないようにして置くことを意識しているので、それと同じような思いで人に丁寧に接する大切さを、感じました。ありがたいです。

(塗師・吉田)
そういう想いで、また戻ってきたいとか、また思い出してほしいと思ったときに、めぐる自体がある、ということが大事ですよね。そこを頑張らないと、ですね。
(漆とロック・貝沼)
確かに、「めぐる」というのは、循環ということと同時に「戻ってくる場所がある」ということなんですね。ハッとしました。
(DID・志村)
私たちもまたみんなで会津に行きたいですね! そういう機会を作りましょう!
今日はありがとうございました。
文:関川 香織

↑2015年「めぐる」を発表した当時の写真
↓2025年「めぐる」10周年座談会当日の写真

めぐる誕生10周年記念座談会「人も、器も、育っていく…10年後の現在地とこれから」の他の記事はこちらから
▷ はじまりのはじまり編:「めぐるが生まれる前のこと」
▷ 前編:「会津の漆器職人とアテンドとの出会い。そして、漆の器にこめた想い。」











